カルチャーショック

今回担当しているグループの中には一人ストックなしで滑っている女性がいます。日曜日のグループ分けの時からストックなしで滑る彼女の姿は私の中で印象的でしたが、最終的に彼女は私のグループに入ることになり昨日から一緒に滑っています。

腕が痛いのでストックは持ちたくないと最初に言って来たので、もちろんストックなしでもかまいませんよと私は答えました。

私自身も去年上腕骨折をしていたので彼女もその類かなと思って休憩の時に軽い気持ちで「腕はどうされたのですか？」と聞きました。

彼女は手で胸のあたりを指し、「腕ではなく、ここを切ったのだ」と答えてきました。

その一言で私の中ではピンときました。彼女はきっと乳ガンだったのだと。すぐに気づいた私はそれ以上その話に触れず、あまり無理しないよう痛かったら言ってくださいねと言いました。

そして、昨日の昼食の時。同じようにグループの中の一人が彼女に「どうしたの？」と聞いていました。その時彼女は同じ答えを返しましたが、驚くことに質問した本人はそれでも更に「なぜそこを切ったのか」と聞き出していました。

そしたら彼女は「胸が片方しかないの」と躊躇しながらも話していました。

日本人である私の感覚だと相手が答えを濁している場合それ以上聞かず、そっとしておいてあげた方がいいのかなと思うところですが、今日また違うメンバーが彼女に同じ質問をする所を見て、これは文化の違いなのかなとちょっとしたカルチャーショックを受けました。

今日彼女に質問した２人はもちろん昨日の話は聞いていなかったのですが、また同じように答えを濁した彼女に対して更に「なぜそこを切ったのか」と聞き、会話は同じ流れで運ばれました。

ただ今回、彼女は自分の心情を詳しく説明してくれました。化学療法を１年半続けた時のつらさを語りました。それは肉体的苦痛ではなく（もちろんそれもあったと思うけれど）精神的苦痛についてでした。

化学治療の副作用で体がとても疲れるみたいですが、彼女にとって一番苦痛だったのが自分の機嫌が悪くなってしまうことだったらしいです。家族に対して当たってしまう自分。そんな自分の行動に気づいているのにやめられない状況。そしてそんな彼女のことを理解してくれない家族．．．

彼女のそんな話を聞き、私は心をとても痛めました。なんて辛い状況なんだろう。ただでさえ肉体的につらい状況なのに。嫌な自分がいて、それに気づいているのに、そんな自分の行動を止められない．．．その上更に、彼女は毎日「自分は明日生き続けることができるのか」と一年半自問し続けたらしいです。

私の想像を絶する「生きるか死ぬか」の瀬戸際を体験をした彼女。知り合ってまだ間もなく、答えを濁している彼女に対し、更にせんさくするお客さん達に少し驚かされましたが（でももしかしたらそれはこっちでは普通なのかも．．．）、そんな話を知り会って２日しかたたない私たちに話してくれる彼女の強さ、そしてそんな苦しさを乗り越えて、今は楽しくスキーをするまで回復した彼女の挑戦意欲に感動した私でした。

そんな彼女はレストランを出る時２人きりになった瞬間私にこう言いました。「ゆーり、私今このグループで本当に楽しいのよ」と。